投稿日:2001/07/08(Sun)
Q:近所にある公園にスダジイが見るも無残に姿に剪定(と言うよりも枝という枝は伐採され唯の電柱のようになってしまった)され、びっくりを通り越して怒りが込み上げています。
そこでお聞きしたいのですが、殆どの枝を落とし、主幹を途中から水平に切り落とすと言った剪定の仕方などあるのでしょうか。またこのような剪定によって切り口から水分がしみ込み樹木は弱らないのでしょうか。
A:木の枝葉は単に光合成による養分補給だけでなく、日光から幹を守り、根元の乾燥を防ぐ日陰を作り、雨の滴を自分の根に集中させるなどなど、様々な理屈と必要性があって、そこにそう茂っているのです。人間が切り詰めることでそのバランスを崩し、木々に負担を掛けていることは言うまでもありません。切り方の大小を問わず、腐朽菌(CODIT論参照)の侵入を許し、ダメージを与えているのです。
だからといって、この狭い空間を木と人が共有していく為には、「剪定」という作業もしないわけにはいきません。私にとってはそれが生活の手段でもあるし、木がかわいそうだと切らないで居てもきっといつか邪魔になれば、根こそぎ引き抜かれるに決まってるから、そうならない為に大きさを維持していくのが植木屋の仕事だと思っています。
毎年手入れしている木と、何年も間を空けて久々に手を入れる木の剪定は基本的に異なります。木によっては大きさを維持しきれなくなった場合は、大胆に切り戻すことで「吹かし直し」ということをすることもあります。現場を見ていないのでその剪定が、「吹かし直し」の為なのか、或いはただ、「荒っぽいだけ」なのかは解りませんが、そういう切り方も無いとは言い切れません。
「吹かし直し」のための強剪定と、「荒っぽいだけ」の雑な剪定との見分け方は、切り口と幹巻きですね。前者の切り口は芽が吹くことを前提としているので切り口が荒れないように丁寧に切りますが、後者の場合は枝がばきっとちぎれてどさっと落ちるときに皮がむけたりします。大事に切っていれば皮をむいてしまったりはしません。 幹巻きは日光から幹の乾燥を防ぐ為に包帯のようなモノを巻くことですが、前者なら必ずコレは巻くでしょう。木を良くしたいのですから。後者ならこんな手間は掛けないでしょう。枯れて元々なんて気持ちでしょうから。
伊藤さんが激怒している状況からして、この現場は後者の可能性が高いですね、、、、。同業者として本当に心が痛みます。だけど、そういう剪定に至るには色々な事情があるであろう事も考えていただきたいのです。
植木屋側がどんなに理屈とプライドを持っていても、結局はお客様の要望に応えなければならないからです。お客様が「ぶっつり切れ」とおっしゃれば「いや、そんな切り方は、、、」と言える時もあるでしょうが、言えないときもあるのです。私らでもそういうことはあります。自分の意に反した仕事をしなければならない場面があります。
ウチの場合はほとんどがお客様から直接のご依頼ですから、あまり無茶なことを言われれば「他をあたってください!」と”ケツをまくる”事も出来ますが、元請け会社から仕事をもらっている業者さんの場合は、仕事を選ぶことができません。「そんな切り方はしたくない」と言えば「あ、そう、じゃ他でやってもらうよ」ということになり、結局その木は同じ運命をたどるでしょう。
職人にしても、自分では「こんな雑な仕事はしたくない」と思っていても、会社や親方から命令されればやらざるを得ないでしょう。そして、親方だって「もっと予算があれば俺だってこんな仕事はさせたくない」と思っているのかもしれないのです。
「この仕事は私の本意ではありません!お客さんがこうしろと言うから仕方なくやっています。」という看板を掲げて仕事したい時があります。「花びらが散らかるから花芽をみんな切っちゃって」とか、「格好はどうでも良いから高さを半分にしちゃって」とか言われて、道行く人に「なんだ、あの植木屋は」なんて言われそうな時です。車の看板だって隠したくなります。
私は、きっと何か事情があってそういう剪定になったのだと思いたいのです。よっぽど予算がなかったのか、発注者に知識と愛情が欠けていたのか、、、、と。
でも、現実問題、知識も技術もない人たちがいたずらに木をいじめている事実も、確かにあるのです。鋏とノコギリさえ持てば、誰にでも木は切れます。どう切ったところで、木が怒って追いかけてくるわけじゃなし、場合によっては「さっぱりした」とご近所から褒められちゃったりもしたりするのです。
”ばっさり”を喜ぶ人もいるし、心を痛める人もいる。切られることで喜ぶ木もあるし、泣いている木もある。何が正しいかではなく、現場の状況にいかに適合しているかが評価の基準になってしまう。電気工事なら配線を間違えれば電気がつかない、大工なら寸法を間違えれば家が傾く。実害のない植木屋はある意味”やりたい放題”、、、。早くて安ければなんでも良いと言われてしまえば、職人は技も知識も磨こうとはしない。
誰が植木屋をダメにしているのか。
お客様でもあり、自分たちでもあり。